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熱力学的DDS

DDSと保湿

当社が開発したDDS(薬物送達システム)技術は、厚さがわずか0.02mmの角層にゲルマトリックスを形成することが基本です。このゲルマトリックスは酸性多糖体とリン酸の複合体を基本構造とし、細胞膜をイメージしたデザインです。DDSの作用メカニズムについては専門的すぎるために省略しますが、このゲルマトリックスは保湿にも活躍すると期待されます。

その前に、保湿とは何かを定義しなければなりません。保湿とは、広辞苑によれば「乾燥しすぎないように、湿度を一定の範囲内に保つこと」と書かれています。これに従うと、皮膚の保湿とは、皮膚が乾燥しすぎないように、湿度を一定の範囲内に保つこと、と表現できます。
生物の細胞は多くの水分を含み、水は生命活動に必須です。私たちが意識しなくても、細胞の水分バランスは自動的に調節されていますから、一般に保湿は不要です。ところが、人体の表面を覆う角層は、死んだ細胞といえる角質細胞でできています。死んだ細胞なので、自分で水分調節ができません。体内の水分がほぼ一定に保たれるのに対し、角層の水分は、空気が乾燥すれば奪われやすくなります。
皮膚の水分の奪われかたは、人により異なるようです。若い人の肌は、老人の肌より水分が多いように見えます。乾燥した肌よりも、潤った感じの肌は美しく見えます。肌の美しさ、健康を保つためには、皮膚の水分が多い方が良さそうです。その皮膚とは、すなわち角層です。角層の水分を一定の範囲内に保つことが皮膚の保湿といえますが、通常は一定以上に保つことが重要と考えられます。ちなみに、角層水分量は、角層全重量の10~20%が好ましいとされています。
私たちの皮膚には、水分を吸収して逃がしにくい、自然保湿因子NMF(Natural Moisturizing Factor)が存在し、保湿に重要な役割を果たしていると言われます。しかし、これだけでは保湿は充分ではありませんし、老化とともに減少するので、角層水分の減少を抑える必要があります。

角層水分は発汗や不感蒸泄などによって体内から供給され、空気中に逃げて行きます。角層内の水分保持力、すなわち保湿力が弱いと、入る水分量より出て行く水分量が増え、皮膚が乾燥します。角層に供給される水分量は容易に増やせませんから、出て行く水分量を減らすしかありません。保湿美容液で肌に水分補給、などと考えても、角層が水分を保持する力が不十分ならば、一時的に潤ってもすぐに水分は空気中に逃げて行き、肌は乾燥することになります。限られた量の角層水分をいかに逃がさないかが保湿のポイントと考えられます。

角層水分を逃がさない方法としては、二つの方法が行われています。

[ 1 ] 保湿剤(吸湿性物質)を角層に与える

[ 2 ] 皮膚に皮膜を形成して水分が空気に奪われるのを防ぐ

[ 1 ] の方法は、NMFと同じ様な働きをする物質を使うことになり、自然な保湿法といえるでしょう。ただし、保湿剤が角層に吸収され、留まる必要があります。角層に吸収されず、角層表面に留まって水分を保持しても、角層そのものが水分不足でスカスカの状態だと、皮膚の美容、健康には寄与しないと考えられます。角層に吸収されても留まらないのであれば、保湿の持続性がないため、やはり保湿剤としては不十分です。
代表的な保湿剤として、グリセリンやプロピレングリコール、ブチレングリコールなどの低分子保湿剤があります。これらは角層への吸収は比較的良いのですが、保湿力が弱く、角層に留まりにくいという問題点があります。
もう一つの代表的な保湿剤であるコラーゲンやゼラチン、ヒアルロン酸ナトリウムなどの高分子保湿剤は、保湿力は高いものの、角層に吸収されにくいという問題点があります。

[ 2 ] の方法は、油性成分で皮膚に被膜を作り、水分の蒸発を防ぐ物理的保湿法です。リンゴやブドウの表面のワックスを思い浮かべればいいでしょう。代表的な被膜剤としては、ワセリンやシリコンオイルなどがあります。アトピー性皮膚炎の治療などでも、皮膚のしわにワセリンを埋め込む感じで塗り込むと、乾燥を防ぐことが知られています。ただし、べたつき感があること、落とすのが簡単ではないこと、などの問題点があります。
さて、当社のDDS技術は、基本的には①に分類される保湿剤に利用できると考えられます。DDSの基剤の一つであるP-P Complex(Polysaccharide-Phosphate Complex)は、タンパクへの結合力が強く、角質細胞と結合して角層内に留まりやすいと期待されるアルギン酸を使用しています。アルギン酸は水分子と結合しやすいカルボキシル基を分子内に多数持つため、保湿力が強いことも保湿剤として魅力的です。問題は、このような高分子をいかに早く、多く角層に吸収させるかということです。当社では、アルギン酸をリン酸との複合体とすることでこの問題を解決しました。この複合体は細胞膜に似せた構造であり、皮膚への馴染みの良さが期待されます。
P-P Complexが角層内で水分を保持できるゲルマトリックスを形成するということは、何を意味するのでしょうか。実は、表皮や真皮はヒアルロン酸などの、保湿性のあるムコ多糖で満たされており、これらは多量の水を含んだゲルマトリックスを形成しています。皮膚のみずみずしさは、このゲルマトリックスの水分で保たれているといわれています。
すなわち、P-P Complexは、死んだ細胞からできた角層にゲルマトリックスを作ることで、生きた細胞からできた表皮や真皮組織に近い水分保持機能を持たせようというものです。
P-P Complexのゲルマトリックスは、最初から持っていた水分だけでなく、体内から逃げて行く不感蒸泄の水分を蓄えることにより、皮膚を保湿すると考えられます。つまり、自らの水分の有効活用です。これを保湿美容液として使用すると、夜寝る前に塗れば、朝起きたときに肌がしっとりしている、という効果が期待できます。
それに加えて、人体を外的刺激等から守る役割の角層が、さらにゲルマトリックスというウォーター・バリアで補強されることになります。正式な臨床試験などはまだ行っていませんが、P-P Complexはアトピー性皮膚炎などにも効果が期待されます。
長々と当社のDDS技術と保湿の関係について書きましたが、実はDDSの研究中に、薬物を抜いた基剤を自分の手に塗ったところ、即効性の美白と保湿効果を認めたことが、保湿美容液としての開発のきっかけです。原料はすべて食品添加物であり、研究を手伝ってくれていた女子学生たちやその友人たちが、私の手作り美容液を並んで手に入れるほどの人気がありました。P-P Complexやゲルマトリックス、ウォーター・バリアなどの概念に到達し、製品として発売するまでには、それから更に数年を要しました。

本技術を使った保湿美容液として、すでにアルギニックTM を発売しています。成分表示をご覧いただくと分かりますが、驚くほど処方はシンプルです。それは、DDS技術が保湿作用を示すのであって、保湿成分を配合しているからではない、という考えに基づいているからです。

本技術により、即効性の美白効果が得られることも見いだしていますが、これは想定外の効果です。塗ってすぐに肌が白く見えるので、より正確には美白whiteningではなく、肌が明るく見えるbrighteningだろうと考えています。つまり、メラニン色素には影響を及ぼさない作用だろうということです。P-P Complex水溶液を塗ると肌がピンと張った感じになる、という声が多いことから、皮膚の緊張度が高まるのではないかと考えられます。ゲルマトリックスで角層が満たされることと、ゲルマトリックスを構成するP-P Complexが、バネのような伸縮性を持つために、皮膚の緊張度が高まるのではないかと考えています。肌がピンと張った結果、表面のでこぼこが少なくなり、光の反射率が高まって肌が明るく見えると思われます。

現在、ステロイドや免疫抑制剤のような有効成分のない、ウォーター・バリアを基本とした「守り」のアトピー性皮膚炎治療薬開発を目指しています。

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